日本バイオセラ

6月 「体内時計」

 ヒトは人生の約1/3を睡眠に充てているが、これは寝食を忘れて仕事に励む多忙な活動家には勿体ない時間かもしれない。動物の細胞には様々な時計が有り、脳の視交叉上核と呼ばれる場所に中心的な時計遺伝子がある。目から入った光が脳の体内時計を調節し、メラトニンと云うホルモンを分泌して全身の時計遺伝子をコントロールしている。生物は長い進化の過程で地球の自転に同調して生きていく仕組みを獲得してきたのである。
 ラットを寝かさないと約1ヶ月で死んでしまう事から、睡眠が生きる為に不可欠である事がわかる。暗闇を忘れた現代社会では生体のリズムに大きなストレスがかかっている。深夜に携帯電話やパソコンを使用すると青い光により脳は朝日を浴びたのと同じ状態にセットされ、睡眠の質が著しく低下する。睡眠時の無意識世界では様々な代謝が営まれている。肝炎ワクチンを摂取した日に良く寝ると血中の抗体価が約2倍も高くなり、睡眠時間が1時間増えるごとに抗体価が約50%増加する。この事から、睡眠不足は免疫系を抑制する事が分かった。免疫系を強化するGPSなども夕方に摂取する事が有効と思われる。
 睡眠不足では食欲促進ホルモンが増加し、食欲抑制ホルモンが低下して過食になる。睡眠不足ではインシュリンの血中濃度が低下する為に体重が増加して肥満になり易い。不眠とリズム障害もメタボの重要な原因なのである。睡眠不足は不愉快な記憶を維持させ、気分を落ち込ませて歪んだ記憶を形成する。睡眠不足に陥る無呼吸症候群の患者は鬱病に罹り易い。これらの患者を呼吸障害を治療すると鬱状態も大幅に改善される。学習後の睡眠は新しい記憶を選択的に定着させるので、良く寝る事により重要な記憶が選択的に強化される。重要な問題は即断せず、一晩寝てから再考する事が大切なのはこの為である。不夜城の先進国では夜間の照明が生体リズムを乱し、鬱、糖尿病、不妊症などのリスクを増大させている。産業事故の大半も深夜2時〜朝4時の間に発生している。睡眠中には脳脊髄液の流れが良くなり神経細胞を保護している。この為、睡眠は認知症やアルツハイマー病のみならず、生活習慣病の予防にも重要である。卵巣や子宮の代謝リズムが乱れると卵子の質や受精卵の着床能力が低下する。流産を繰り返す不妊女性にも体内時計の乱れが関与している。メラトニンはリズム障害を改善する事から、不眠症の治療や不妊治療に利用されている。一日の照明〜輝度を自然のサイクルに同調させる事が健康の基本である。朝日と同様に朝食も生物時計をリセットする重要な応援団である。「早寝、早起き、朝ご飯」が健康長寿の基本である。
 
井上正康先生 略歴
1945年 広島県(戦後生まれ)
1970年 岡山大学医学部卒業(医師)
1974年 岡山大学大学院修了(医学博士)
1980年 米国Albert Einstein医科大学
    客員准教授(内科学)
1982年 米国Tufts大学客員教授(分子生理学)
1992年 大阪市立大学医学部 教授
    (生化学・分子病理学)
2011年 大阪市立大学名誉教授
 同年 大阪市立大学大学院医学研究科
    特任教授(脳科学寄附講座)
 同年 宮城大学理事&副学長(震災復興担当)
2013年 健康科学研究所 所長(産業医学)
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